2019.02.05

ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンともに正味最高熱効率50%超を「産産学学連携」で達成(科学技術振興機構)

ガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンともに正味最高熱効率50%超を「産産学学連携」で達成(科学技術振興機構)

~燃焼、摩擦、ターボ過給、熱電変換の技術で環境にやさしい内燃機関へ~

☆ポイント

・乗用車用のガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンともに、正味最高熱効率50%を上回る研究成果を得ることに成功した。

・この高い熱効率は、超希薄燃焼(ガソリン)と高速空間燃焼(ディーゼル)という燃焼技術と、両エンジン共通の損失低減技術をそれぞれ統合した結果得られたものである。

・これらの成果は、複数の企業と大学が連携する「産産学学連携」で得られたものであり、プロジェクト終了後もこの体制を持続させる取り組みを、産学が開始している

1.概要

内閣府 総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的燃焼技術」(プログラムディレクター:杉山 雅則(トヨタ自動車株式会社))(管理法人:国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)【理事長 濵口 道成】)において、慶應義塾大学の飯田 訓正 特任教授、京都大学の石山 拓二 教授、早稲田大学の大聖 泰弘 特任研究教授らは、乗用車用のガソリンエンジンおよびディーゼルエンジンともに、正味最高熱効率注1)50%を上回ることに成功しました。

現在市場に出ている乗用車のエンジンの熱効率は40%程度です。本プロジェクトは、過去40年間かけて自動車企業が10%ほど向上させた熱効率を、5年間という短期間でさらに10%引き上げるという野心的な目標を掲げていました。

本プロジェクトでは、ガソリンエンジンについては、超希薄燃焼(スーパーリーンバーン)注2)、ディーゼルエンジンについては、高速空間燃焼の実現に成功しました。さらに両エンジンに共通する損失低減のための研究開発によって、機械摩擦損失の低減技術、ターボ過給システムの効率向上技術、および熱電変換システムの効率向上技術を開発しました。これらの技術を統合した結果、ガソリンエンジンでは51.5%、ディーゼルエンジンでは50.1%の正味最高熱効率を得ることができました。

このほか、本プロジェクトでは、東京大学の金子 成彦 教授らにより、自動車エンジンの3次元燃焼解析ソフトウェア「HINOCA(火神)」、PM(粒子状物質)生成のモデル「RYUCA(粒神)」、および自動車エンジン燃焼のモデルベース制御システム「RAICA(雷神)」の構築にも成功しています。

今回の成果は、今後数十年間は主流と予測されている内燃機関を搭載した自動車による環境負荷を低減し、世界の二酸化炭素(CO2)排出量の削減に貢献するものです。さらに、燃焼分野の基礎科学を発展させると同時に、日本の産業競争力の強化をもたらすものです。

これらの研究成果は、「産産学学連携体制」注3)を構築し機能させることによって、オールジャパンのアカデミアの基礎研究力を引き出し成し遂げられました。この体制は、本プロジェクトが終了した後も持続するよう、産学の取り組みが開始しています。

2.研究の背景と経緯

自動車の電動化が進む中で、2040年でもハイブリッド車やプラグイン・ハイブリッド車も含めて、世界の全自動車保有台数の約89%は、内燃機関が搭載されると予測されています。従って、世界のCO2排出量を減らすためには、内燃機関の熱効率向上は不可欠です。これまで、日本を始めとする世界各国の自動車会社が、内燃機関の熱効率向上技術の開発に取り組んできました。しかし技術の成熟化に伴いその飛躍的な進展はますます難しくなっており、1970年代に30%だった熱効率は、40年以上をかけても40%に到達する程度でした。

乗用車用エンジンの熱効率のさらなる向上が難しくなっている背景には、エンジンの燃焼現象が極めて複雑かつ高速で、空気量、燃料量、燃焼のタイミングなどコントロールするパラメーターが膨大なことにあります。エンジンは、ピストンの動きに合わせて急激な化学反応と発熱が起こり、それによって生じる圧力がピストンに作用し大きな動力を生み出すという仕組みになっています。さらに、このような燃焼が、1秒間に何十回も間欠的に起こっています。エンジンとして成立させるには、これらを安定して起こし続けなくてはなりません。

熱効率をさらに向上させるには、燃焼過程で動力に変換されないで捨てられているエネルギー損失注1)を極限まで低減できる新しい燃焼コンセプトを創出し、さらにその燃焼過程をこれまで以上に高度に制御することで、そのコンセプトを実現する必要があります。そのためには、熱の移動、流体の挙動、物質の移動、化学反応、およびこれらの相互作用で高速に進行する燃焼現象を科学的に解明し、その基礎的知見に基づく技術開発が重要です。

燃焼過程だけではありません。エネルギー損失を低減するには、高速に動くエンジンの仕組み上どうしても発生する、摩擦によって失われるエネルギーを減らす技術、および排気として放出されるエネルギーを有効利用するターボ過給や熱電発電といった技術の開発も必要です。熱効率向上は、これらの知見を統合することで初めて成し遂げられる、複合的な科学技術の粋と言えます。