2019.01.16

微細手術に適用可能な低侵襲手術支援ロボットの開発(科学技術振興機構)

微細手術に適用可能な低侵襲手術支援ロボットの開発(科学技術振興機構)

~「バイオニックヒューマノイド」活用により世界最高水準のロボットを実現~

☆ポイント

・産業用ロボットアームをベースとした双腕の手術支援ロボット「スマートアーム」を開発しました。

・スマートアームには、術具同士や術具と生体との衝突をロボットが自動で回避する制御など、大学・企業・病院との共同研究により開発したさまざまな最先端のロボット技術が統合されています。

・スマートアームは手術支援ロボットとして世界最高水準の性能で、経鼻内視鏡による脳外科手術など微細な領域の手術を主な対象としており、高度で困難な手術へのロボット手術適応の可能性が広がります。

1.概要

東京大学 大学院工学系研究科 光石 衛 教授らの研究グループは、大学・企業・病院との共同研究により、脳神経外科などにおける微細手術への適用を可能とする低侵襲手術支援ロボット「スマートアーム」を開発しました。

近年医療現場に導入されている低侵襲手術支援ロボットは、腹部を主な対象としていますが、さらにさまざまな手術への普及が期待されています。しかしながら体内の狭所・深部において非常に繊細で高度な手術を行うには、個別技術の小型化や高性能化に加えて、手術ロボットシステムとしていかに要素技術を統合するかが大きな課題でした。

本研究グループは、大学・企業・病院との共同研究により開発した要素技術を統合し、産業用ロボットアームをベースとした双腕の手術支援ロボット「スマートアーム」を開発しました。スマートアームの研究開発は、バイオニックヒューマノイド注1)の脳神経外科手術用モデル「バイオニック・ブレイン」を活用することで、脳神経外科医からのフィードバックを受けながら医工連携研究として実施しました。このバイオニック・ブレインを用いることで、経鼻内視鏡手術注2)における硬膜縫合を実現できる性能も確認しました。これは手術ロボットとして世界最高水準の性能です。この研究成果により、高度で困難な手術へのロボット手術適用の可能性が大きく広がります。

2.研究の背景

本研究は、ImPACTプログラム「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」の一環として実施されました。本プログラムでは、高感度センサーを内蔵した精巧な人体モデル「バイオニックヒューマノイド」を開発し、ヒトや実験動物の代替とすることで革新的技術シーズの研究開発や社会実装を加速することを目指しています。

本プログラムの「プロジェクト2:スマートアーム」は、バイオニックヒューマノイドを活用することで革新的技術の研究開発を加速した例を示すことを目的としています。革新的ロボット技術シーズを早期に手術支援ロボット「スマートアーム」として統合するため、大学・企業・病院による医工連携・産学連携研究として実施しました。

近年医療現場に導入されている手術支援ロボットは、腹部を主な対象としていますが、さらにさまざまな手術への普及が期待されています。しかしながら体内の狭所・深部において非常に繊細で高度な手術を行うには、個別技術の小型化や高性能化に加えて、手術ロボットシステムとしていかに統合するかが大きな課題でした。

本プロジェクトでは、困難な手術の中でも脳神経外科手術における経鼻内視鏡手術を主な対象として設定しました。この手術においては、鼻から術具を挿入して狭小空間で術具を精密に操作する必要がありますが、このような医療現場での課題を工学系研究者が理解することは困難でした。また、人間と同じ鼻を持つ動物がないことから、動物実験をベースにロボットの研究開発や評価を行うことはできず、研究開発に着手することすら難しい状況でした。

3.開発内容

本研究では、当該プログラムが提案するセンサー付き超精巧人体モデル「バイオニックヒューマノイド」を活用することで、対象とする手術の課題を定量的に把握し、また、医師によるロボット評価を医工連携体制で推進することで、研究開発期間を大幅に短縮し、プロトタイプの早期開発を実現することができました。

近年急速に普及している手術支援ロボットの多くは、腹部など比較的広い作業空間を確保できる部位を対象としており、ロボット術具は直径8ミリメートルのものが主に使用されます。また、手術支援ロボットは医師の手の動きを忠実に再現するため、特に視野外でのロボットと生体との接触が危険であるという問題がありました。

これに対し本プログラムでは狭所・深部の微細手術を対象とするため、より細径のロボット術具の開発や微小なセンサーの搭載、ロボット術具同士やロボット術具と生体との衝突を自動で回避する制御、さらにはロボットを操作する医師の安全を配慮した自動停止機能など、多くの要素技術を新たに開発する必要がありました。また、これらの最先端技術を1つのロボットシステムとして統合することがとりわけ大きな課題でした。

スマートアームは産業用ロボットアームをベースとした双腕の手術支援ロボットです。スマートアームには九州大学・(株)高山医療機械製作所・東京大学などが開発した、新たな駆動機構により先端が屈曲する直径3.5ミリメートルのロボット術具が搭載されており、そのロボット術具には東北大学・九州大学・東京大学が開発した微小な力センサーも搭載しています。ロボットアームは(株)デンソーが開発したセンサー付きカバーによって覆われており、人との衝突を検知して自動で停止することができます。スマートアームは名古屋大学が開発したユーザーインターフェースにより、医師が直接ロボットに触って操作します。一般的な低侵襲手術支援ロボットのように、離れた場所から操作できるようなユーザーインターフェースも東京大学が開発しており、術具同士や術具と生体との衝突を自動で回避しながらロボットを操作できます。このように、世界最高水準のロボット技術を集約することで、医師や患者にとって安心安全な手術支援ロボットを実現しています。

スマートアームは、本プログラムの「プロジェクト1:バイオニックヒューマノイド」において名古屋大学 新井 史人 教授らが中心となって開発したバイオニックヒューマノイドの脳神経外科手術用モデル「バイオニック・ブレインBionic Brain(BB)」を活用し、東京大学および日本医科大学の脳神経外科医からのフィードバックを受けながら開発することで、3年という短期間で構想からシステム統合まで行うことに成功しました。このバイオニック・ブレインを用いることで、用手的に行う場合には極めて困難である経鼻内視鏡手術における硬膜縫合を実現できる性能も確認しています。これは手術ロボットとして世界最高水準の性能です。開発された要素技術は、それぞれ単体としても極めて高度であり、医療以外への展開も積極的に行っていく予定です。

4.社会的意義

今回の手術ロボット技術の確立によって、経鼻内視鏡手術のような高度で困難な手術へのロボット手術適用の可能性が大きく広がります。経鼻内視鏡手術は、患者にとっては開頭手術と比較して格段に回復の早い手術であり、このような低侵襲手術を広く普及することが期待されます。また、スマートアームは、ロボット術具を交換することにより、これまでロボット手術の対象とならなかった体内の狭所・深部における微細手術にも適用可能です。スマートアームを基盤として、手術支援ロボット研究開発を世界的にリードしていきます。

また本研究では、バイオニックヒューマノイドを活用することにより、スマートアームのプロトタイプを早期に開発することができました。このことは、試行錯誤をなくすことで技術シーズを早く社会に届けるというプロセス革命の可能性が大きく開けたことを意味します。

5.用語解説

注1)バイオニックヒューマノイド

内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」(プログラム・マネージャー:原田 香奈子)で開発中のもので、ヒトや実験動物の代わりとなるセンサー付きの精巧な人体モデルのこと。

注2)経鼻内視鏡手術

鼻孔から内視鏡と術具を挿入することで、開頭手術ではアプローチが難しい脳の下部にある下垂体や頭蓋底にアプローチする術式。開頭手術と比較して、傷が残らず、また、脳への侵襲が低いため、術後の早期回復が可能。